私たちは同じ時間を過ごしたとしても、その過ごし方によって、その時間を長く感じたり、短く感じたりします。

渋滞にはまってなかなか動かないような時や誰かを待っている時は、それがたとえ5分であってもその5分の待ち時間をとても長いように感じます。
それに対して、友達と遊んでいる時のような楽しい時間や締め切り間際の忙しい時間は、あっというまだったと思うでしょう。

それはどうしてなのでしょうか。
何が時間の感覚を決めているのでしょう。
そのメカニズムについて、まとめてみました。

時間感覚を規定する心拍数

私たち人間は、1秒と1.5秒の時間の違いでさえも識別できるとされています。
この時に働いている脳の部位が島皮質(とうひしつ)です(注1)。
他にも、下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう)と被殻(ひかく)も時間の感覚をとらえるときに働くことが分かっています(注2、注3)。

私たちが時間を測る手がかりが心拍数だといわれています。
東京工業大学の本川達雄教授の書いた「ゾウの時間、ネズミの時間」という本があります。
それによりますと、1分間に拍動する心臓の回数は動物によって違うそうです。
ハツカネズミは1回心臓がドキンと打つのに0.1秒。
ところが、ゾウだと3秒かかります。

基本的には身体の大きい動物ほど呼吸をするのも心臓が拍動するのも筋肉を動かすのもゆっくりになります
そのため、ネズミから見たゾウは突っ立っているだけで何も動いていないように見え、逆にゾウから見たネズミは目にも止まらない速さでちょろちょろ動いているように見えている可能性があるのだそうです。

同じように私たちも何か緊張しているときや興奮しているとき、つまりドキドキと心拍数が速くなっているときには時間の流れが違って感じます。

普段の生活ではどうしても交感神経が優位になりがちです。
そのため心拍数も速くなっているのでしょう。
それがゆったりとして過ごしている時、リラックスしている時には、副交感神経が優位になり、心拍数も少しゆっくりとしています。
そういう時には時間がゆっくりと流れるように感じるのもそのためかもしれません。

恐れ時間感覚を狂わせる

私たちが、どれくらい時間がかかったかという予測を間違える要因には、注意、興奮、恐れといった多くのものがあります。

では、それがどれくらい私たちの時間感覚に影響を与えているのでしょうか。

ワシントン大学のElizabeth F. Loftus博士らが行った実験です。
469人の被験者たちに対して、偽の強盗事件をとらえた30秒の映像を見せました。
そして、その2日後、被験者たちに映像で見た強盗行為がどのくらい続いたのかという質問に答えてもらいました。
すると、答えの平均は147秒、およそ3倍も長い時間だったのです。

映像で見た強盗事件に対する恐れでさせも時間間隔に影響を与えたということです。

注意と時間感覚

同じようにどれくらい注意を払っているかということも時間感覚にかなり影響しているようです。

ニューヨーク州立大学のヒックス博士らが行った実験です。
被験者は1組のトランプを1つの山に重ねるか、色別に2つの山に分ける、マーク別に4つの山に分けるよう求められました。どの場合にも42秒間その課題をした後、ストップをかけられ、どれだけの時間、課題をしていたかを尋ねられました。

すると全く同じ時間だけトランプを重ねるという行為をしていたにもかかわらず、より注意を払わないといけない4つの山に分ける課題で一番時間が短く感じました。
それぞれの平均時間は1つの山だと52秒、2つの山だと42秒、4つの山だと32秒。

同じ時間を過ごしたはずなのに、感覚的には全く違うわけです。

年を重ねると1年を短く感じる

年を重ねるにつれ、1年が過ぎるのが早く感じるというのはよく聞く話しです。
自分自身を振り返ってみても、子どものときには、1年はもっと長いもののように感じていたように思います。
どうして、こういうことが起きるのでしょうか?

これは、大人になって経験値が増えることが原因ではないかと考えられています。
日常の生活は、大人になるにつれ以前にも経験したことであることが多くなってきます。
そうすると、脳が新しく何かを記憶する必要が少なくなります。

以前にも経験したことというのは、予想の範囲内の出来事であり、脳をフル活用する必要がありません。
そうすると、時間を短く感じるのだそうです。
つまり、時間を短く感じているということは、普段の生活で脳の機能をフル活用していない可能性があるということです。
耳が痛い話ですね。

何回も経験したことは興味がなくなる

これを証明するような実験があります。

コンピューター画面には、ありふれた茶色の靴の写真が繰り返し現れます。
そして、時々、靴の代わりに花の写真が映し出されます。
そうすると、靴の写真の表示時間も花の写真の表示時間も同じにもかかわらず、花の写真が表示されている時間の方が長く感じるのです。

これは、どうしてなのでしょうか?
どうも、靴の写真を見ている時と花の写真を見ている時とでは、注意力に違いがあったようなのです。

つまり、靴の写真は何度も繰り返し表示されていました。
そのため、3回目くらいになるとほとんど印象に残らなくなっていたのです。
それに対して、花の写真は時々しか登場しないので、現れた時に注意を引き、長く表示されていたように感じたのです。

好奇心と記憶

さらに、好奇心は、記憶をするためにはとても重要です。
というのも、同じことをしたとしても、『楽しんでやる』のか『いやいややる』のかでは、脳の働きが違ってくるからです。

私たちが年齢と共に記憶力が落ちるのも、好奇心が少なくなるからではないかとも言われています。
音楽などの嗜好と年齢の関係を研究したロバート・サポルスキー氏は、「人は人生の中で20歳を過ぎると音楽の好みに対する『好奇心の窓』が閉まり始める」と話しています。

35歳ごろには窓がほぼ閉じきった状態になるので、たとえ新しい音楽のジャンルが流行しても、約95%の人は聞くことがないそうです。

「好奇心の窓が閉じる」というのは食べ物やファッションについても同じだそうです。
「舌にピアスを開ける」というような過激な文化に対しては23歳までに好奇心の窓が閉じてしまい、新しい食べ物への挑戦は39歳が限度なのだそうです。

充実した時間を過ごすために

では、年を重ねても、充実した時を過ごすにはどうしたらいいのでしょうか。

以下の5つを行うとよいそうです。
1. 学び続ける
2. 行った事のない場所を尋ねる
3. 新しい人に会う
4. 新しい活動にチャレンジする
5. 自発的になる

まとめ

同じ時間を同じように過ごしたとしても、それを長いと感じるのか、短いと感じるのかは人それぞれです。
その人の今までの人生での経験や現在の状況によって、その感じ方は変わるのかもしれません。

注1)島皮質 (insula) ブロードマン13-16
シルビウス裂内奥に位置し、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、基底核に囲まれる
前頭葉、頭頂葉、側頭葉、帯状回、扁桃体、海馬を含む辺縁系、大脳基底核、背側視床などさまざまな領域と連絡
味覚、痛み、内臓感覚、心臓血管制御を中心とする自律神経系、言語、注意、感情、異なる感覚間の統合に関与

注2)頭頂小葉 (inferior parietal lobule) ブロードマン39, 40
頭頂間溝の水平部分の下、中心後溝下部の後部に位置する
角回 Angular gyrus ブロードマン 39:言語理解、連想記憶部分
縁上回 Supramarginal gyrus ブロードマン 40:音韻のワーキングメモリー

注3)被殻 (putamen)
大脳基底核の1つ
尾状核、腹側線条体とあわせて、線条体を構成
強化運動に関係

参考
脳の取扱説明書 p197、198
http://www.lifehacker.jp/2013/07/130716daylonger.html
http://gigazine.net/news/20140212-favorite-music-personality/

Elizabeth F. Loftus et. al. Time went by so slowly: overestimation of event durations by males and females. Cognitive psychology vol.1 3-13, 1987

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http://www.jstor.org/stable/1421469?seq=1#page_scan_tab_contents