私たちは、見ているもの全てを認識しているわけではありません。
何か一つのことに注意を向けていると、他に注意が向かなくなるというのはよくあることです。
そのために大切なことを見落としたりということが起こってきます。

特にありがちなのが、途中で起こった明らかな変化に気づかないという「変化の見落とし」です。
これは、変化盲 Change blindnessとも呼ばれています。

視線追跡実験

最初にこの変化盲を指摘したのは、1991年にDennettが行った実験です。

被験者にスクリーン上のテクストを読んでもらいます。
コンピューターは視線追跡装置を備えていて、被験者がテクストを読むために目を動かしているときに、その視線の行き先を読みとって、その位置にある単語をそれと同じ長さの別の単語に差し替えてしまいます。
しかし、被験者はその変化に気づかなかったのです。

目の前で起きている変化に気づかない

変化盲は、現実の世界でも起きるのでしょうか?
それを証明したのが、1998年にShimonsとLevinが行った実験です。
この結果は、かなり衝撃的です。

実験者が通りすがりの人に道を尋ねます。
実験者と被験者が話をしていると、ドアを運んでいる作業員たちが二人の中を割って入り、通り過ぎます。
このときに会話をしていた実験者がドアの裏に隠れて、別の人と入れ替わります

実験者が全く別の人物に変わったにもかかわらず、気づいたのは15人中たったの7人だったそうです。
体型が変わったり、人種が変わったり、ときには性別までかわっているにもかかわらず、半数の人は気づきもしなかったのです。

自分が選んだものにさえ気づかない

これに関しては、さらに驚くような実験があります。
実験者が男性に2枚の女性の写真を見せます。
そして、魅力的だなと思うほうを選んでもらい、その写真を被験者に渡します。
ところが、この実験者は実はマジシャンで、渡すときに本当は選んでいない女性の写真をを渡します。
そして、「どうしてこちらの女性を選んだんですか?」と聞きます。
すると、「微笑みがいいから」とか「イヤリングが気に入ったよ」とか答えるそうです。
本当は選んでもいないのに。

これくらい変化に気づかないようにできているのです。
して、いったん自分が選んだ(と思い込んでいる)ものに関しては、特に疑わずに、その選んだ理由を探し出してしまいます。

まとめ

私たちは、自分の日々のわずかな変化に気づくことはほとんどありません。
久しぶりに会った人たちから指摘されて初めて、自分の変化に気づくということもよくある話です。
だからこそ、柔軟に変化に対応して、適応していけるのかもしれません。

しかし、自分の目標や状態を意識していないと、自分でも気づかないうちに周りに流されて変わっていってしまったり、自分の小さな成果に気づかずがっかりしたりすることになってしまうということになりかねません。

ときどき自分の状態を客観的にみるように意識してみるのが良いのかもしれません。

参考)
脳の取扱説明書 p253
『錯覚の科学』 クリストファー=チャプリス ダニエル=シモンズ著、成毛真 解説、木村博江 訳 文芸春秋 2014
Shimons, D.J. & Levin, D. T. Failure to detect changes to people in real-world interaction. Psychonomic Bulletin and Review 5, p644-649, 1998
Johansson P. Failure to detect mismatches between intention and outcome in a simple decision task. Science 310(5745) Oct 7 116-119, 2005