運動や音楽など肉体的な技術を身につけるためには、繰り返し練習することが必要です。
その一方で、ただ時間をかければいいわけではないということは言うまでのありません。
どれくらい集中して練習に取り組んでいるのかということ以外に、その練習が効果的な方法かどうかが重要になってきます。
練習の質を上げるには、練習の邪魔になるものをとことん排除していく必要があります。
たとえばテレビやパソコンの電源を切るなど、運動に集中できるよう環境を整えるとうことです。
では、その上でどのような練習をするとよいのでしょう。
ブロック練習とランダム練習
運動の練習方法には、ブロック練習とランダム練習があります。
ブロック練習というのは、同じ課題を何回も繰り返し練習してから次の技術の練習に移るという練習方法です。
それに対して、ランダム練習法というのは、違う課題をランダムに行います。
この二つの練習法、実は、ランダム練習法の方が効果的だと言われています。
もちろんブロック練習法では、繰り返し同じ課題を練習するので、練習中は上手にできます。
そのため、初期の段階でイメージをつかむのには効率的です。
ただ、技術のコツをつかみ、身につけた技術を保つとなるとランダム練習法の方がいいそうです。
では、どうしてランダム練習の方が効果的なのでしょうか?
というのも、違う課題をランダムに行うほうが一回一回の動作により注意を払う傾向があるのです。
当然、違う課題をランダムに行うほうが課題中に失敗をしやすいわけですが、その失敗を通して試行錯誤しながら学習することも学習効果を上げる要因なのではないかと考えられています。
教師あり学習と強化学習
私たちが、運動の技能を身につける方法には、「教師あり学習」と「強化学習」という2つの方法があります。
「教師あり学習」は、なにかお手本となるものがあり、それと同じ運動を行おうと意図する方法です。
そして、「強化学習」は、行った運動の結果がもたらす成功(報酬)をできるだけ増やしていこうとする方法です。
「教師あり学習」では、お手本と自分が行う実際の運動との差を少なくしようとして学習していきます。たとえば、楽器を習うとき、先生が見せるお手本となるべく同じように演奏しようとするのがそうです。
このようなお手本と自分の実際の運動との違い(エラー)に基づいた運動学習に欠かせないのが、運動学習・記憶にかかわっている小脳です。
小脳は運動前野との連携が強いとされています。
運動前野は、運動の開始や順序などをプログラミングしています。そして、小脳神経回路シナプスに運動記憶が蓄えられます。
「強化学習」では、より良い結果をもたらそうとして、運動様式を向上させていきます。
たとえば、野球の遠投などでより効果的なフォームを学習して、飛距離という報酬を最大限に得ようとします。
このような運動の適切性に関与し、結果の良しあしで報酬が決まる運動学習に重要となるのが「大脳基底核」です。
大脳基底核は、補足運動野との連携が強いとされています。
補足運動野は、運動のプログラミングや両側の協調運動に関わっています。
これら2つの学習の機構は、相反するものではないそうです。
1つの学習課程において、この2つが共同で働きます。
まぁ、運動の学習のメカニズムはどうあれ、繰り返し練習するということは大切です。
とはいっても、単にやり続けるのではなく、適度に休憩をいれることも、学習した運動を定着させるためには必要です。
というのも、休憩中に記憶が固定化するのです。
イメージトレーニング
運動の学習を別の視点から見ていきましょう。
よく技術を獲得するうえで、イメージトレーニングが重要であるといわれています。
では、イメージトレーニングは、実際どれくらい効果があるのでしょうか。
NASAの元研究者であるチャールズ・ガーフィールド博士が、ロシア人の競技者を対象としたある興味深い研究について話しています。
競技者は4つのグループに分けられます。
第一のグループ: トレーニング時間を100%実際のトレーニングに費やす
第二のグループ: トレーニング時間の75%を実際のトレーニングに、25%をイメージトレーニングに費やす
第三のグループ: トレーニングとイメージトレーニング半々
第四のグループ: トレーニング時間の25%を実際のトレーニングに、75%をイメージトレーニングに費やす
そして、1980年冬季オリンピックでこの4つのグループのどのグループがもっとも成績が伸びたのかを調査しました。
すると、第四のグループがもっとも成績が伸びていたのです。
次いで、第三、第二、第一の順だったそうです。
つまり、イメージトレーニングにかける割合が大きかった方が成績が伸びたということです。
これは、どうしてなのでしょうか?
私たちは、イメージを行うことで実際行ったのと同じ脳の部位が活性化することが分かっています。
チャールズ ガーフィールドは、「最高のパフォーマンスを披露した選手たちをインタビューして分かったのは、みんな練習のときも本番のときも実際の競技のときも、なんらかの形で精神的リハーサルを行なっているということだ」と述べています。
では、実際、イメージした時に私たちの身体はどういう反応をしているのでしょうか?
1992年にYueとColeは、被験者が運動イメージ上だけで筋力トレーニングを行うと被験者の最大筋力が上昇するということを証明しました。
そして、運動をイメージている時、私たちの脳は実際の運動をシュミレートしています。
それを裏付けるかのような報告が多くあります。
Decetyらは、トレッドミル上を走るイメージをしたところ、心拍数や呼吸数が増加したことから、自律神経活動が実際に運動している時と同じように変化していると考えました。
イメージトレーニング中には筋収縮を引き起こす脊髄の運動ニューロンの興奮性も変化するそうです。
脳もイメージトレーニング中は、実際運動を行っている時と同じ領域(一次運動野、補足運動野、運動前野、小脳、大脳基底核)が活動します。
実際の運動中と同じような生々しい運動感覚を生じるという報告さえあります。
まとめ
何か技術を身につけるためには、繰り返し練習し脳の回路を鍛えることは重要です。
その上で、いかに効率よく、集中して練習をするのかがポイントとなってきます。
これは、運動だけの話ではないかもしれません。
今現在に集中すること、いろいろな失敗を通して学
参考)
脳の取扱説明書 p92