私たちは、同じものを見て、同じ音を聞いたときに、本当にみんな同じように見えたり聞こえたりしているのでしょうか?

私たちが実際に眼にしているものも人によって見え方が違ったり、聞いている音も違ったように聞こえているのかもしれません。

人それぞれとらえている感覚が違うのではないかと推測する要因の一つに、共感覚というものがあります。

共感覚は、五感のいろいろな感覚がまじわる不思議な感覚です。
それはいったいどのようなものなのでしょうか。

共感覚とは

私たちが感じる感覚、五感には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といったものがあります。
多くの人では、大人になるにつれ五感も専門性が決まり、1つの感覚受容器が1つの感覚を担当するようになります
目で見て、耳で聞いて、肌を通して感触を、鼻で匂いを、舌で味を感じます。

ところが、中には完全には担当が分かれていない人たちもいます。
それが共感覚と呼ばれるものです。
これは、持っていない人からすると、とても不思議な感覚です。

私がその存在を初めて知ったのは、14年ほど前です。
共感覚を持つ数学者ダニエル・タメットが書いた「ぼくには数字が風景に見える」というタイトルの本を本屋で見かけたのです。
共感覚を持ち合わせていない私にとっては、このタイトルからしてまったく意味不明でした。

共感覚というのは、この本の題名にもあるように数字に色がついて見えたり、単語に味を感じたり、味が見えたり、音楽に色が見えたりと視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった感覚が混ざり合ってしまう状態をいいます。
といっても、共感覚のない人にはピンと来ないですよね。

共感覚は、実は誰でも持っている

でも、持っていない人からすると不思議な共感覚、実は赤ちゃんのときにはみんな持っていたのではないかともいわれています。

というのも、最近の研究の結果から光や分子、音波などあらゆる刺激はもともと2つ以上の感覚で認知される可能性があるらしいのです。
つまり、目から入ってきた光の刺激から映像を見るだけでなく、音を聞いたり、肌で感じたりすることができていた可能性あるということです。

ただ、脳の成長に伴って、よく使う経路は発達し、使わない経路は廃れていきます。
その結果として、視覚刺激に反応するよう領域は音によって反応することは少なくなり、ますます視覚情報のみが届くようになるというわけです。

これは、外から入ってくる刺激をすばやく識別し、攻撃から身を守る手段として発達するのではないかと考えられています。
いちいち見ているものに音や香りを感じていたら、情報が多すぎて、判断する時に混乱して、とっさの行動しにくくなってしまいます。

共感覚は芸術家に多い

そして、実は、この共感覚、意外と持っている人が多いのではないかとされています
ただ、その話をしても変な人と思われるとか周りに理解されないといった理由で、わざわざ他人にその話をしていないだけなのです。
私の周りにも共感覚を持っているけど誰にもいわなかったという人が何人もいます。

特に芸術家では、この共感覚を持っている人が多いそうです
作家ウラジミール・ナボコフもアルファベットの文字の音に異なる色や質感を感じていたといわれています。
独特の豊かで個性的な感性が情感豊かな表現を生み出すのかもしれません。

持っていない身からするとちょっと味わってみたい気もしますが、そのいっぽうで、場合によってはこの共感覚は、生活を難しくする場合もあるようです。

数字が色に見える人の場合、違う色で数字が書かれていたりすると何とも不快な感じがするそうです。
生活の中に数字は溢れています。
しかもいろんな色がついて。
いちいち不快に感じていたら大変なのは想像に難くないでしょう。

マガーク効果~共感覚が存在する証拠?~

共感覚がないとはいっても、五感と言われる感覚が独立して存在しているのかというと決してそうではありません。
捉えられないだけで、他の感覚も微妙に混ざっている可能性があります。

たとえば、料理を想像してみてください。
きれいに盛り付けられた食事だと更においしく感じたという経験があるのではないでしょうか。

共感覚がない人にも、視覚情報が聴覚情報に影響を与えているということを示すものに『マガーク効果』と呼ばれるものがあります(体感したい人は下記リンク参照)。

「ダ、ダ、ダ」と発声している(ように聞こえる)男性の映像があります。
ところが、目を閉じて音声だけ聞くと「バ、バ、バ」と言っているのがわかります。
さらに、音声を消して口の動きを見てみると「ガ、ガ、ガ」と言っていると感じます。
音声情報が「バ」、視覚情報が「ガ」と情報が一致していないため、脳がつじつまを合わせようとして「ダ」と聞こえるようになるのではないかと考えられています。

もちろん、逆のパターンも知られています。
複数の「ビー」という音を聞きながら一回の閃光をみると、光を何回も見たと感じることがあるそうです。

同じ体験でも人によって感じ方が違う

何かを体験したときに得た感覚は、情動と関連する扁桃体に影響を与え、記憶として蓄えられています。
そして、次に似たような感覚に触れたときに、当時に体験した感情が思い出され、私たちにさまざまな感情をもたらします。

私たちが身体を通して経験したこと…見たり、聞いたり、触れたり、味わったり、匂ったり、そういった今までの経験の違いによって、人それぞれ出てくる感情が違ってきているのでしょう。

まとめ

不思議な感覚、共感覚についてまとめてみました。
私たちは、つい他人も自分と同じように捉えていると考えがちですが、人によってものごとの捉え方は違っても不思議ではありません。

相手がどのように感じているのかに意識を向けることで、よりお互いの理解が深まるのかもしれません。

参考
脳の取扱説明書 p158
マガーク効果ーyoutube-