「やる気」とは、なんでしょう。

「やる気」は、ものごとを行おうとする気持ちや欲求のことです。心理学的では、やる気のことを「モチベーション」と表現しています。

「やる気」の定義だけみると、やりたいと思っているのに、なかなかやる気がでないというのは、なかなか矛盾しているように思えます。

とはいっても、この現象は意外と多くの人にみられるのではないでしょうか。

たとえば、「掃除をしようとおもっているのに、ついごろごろしてしまう」「レポートや仕事の締め切りが近いのに、やる気が出ない」といったようなことは誰しも一度くらいは経験しているかもしれません。

では、どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。

このやる気を自分で何とか出すことができたら便利だと思いませんか。
脳科学の観点から、やる気を出す方法についてまとめてみました。

やる気を出す4つのスイッチ

脳には、やる気に関係する場所があります。
それが、「淡蒼球(たんそうきゅう)」です。
ここはやる気などの日常生活に必要な基礎パワーを生み出すとされています。

淡蒼球は、大脳皮質と視床・脳幹を結びつけている神経核の集まりである大脳基底核の1つです。
ただ、自分でやる気を出そうと思っても難しいように、残念なことにこの部位も自分の意志で活性化させるという事ことはできません

ただし、朗報があります。
この淡蒼球を動かす4つのスイッチというのがあるそうです。

1つ目がBody(身体)
2つ目が Experience(経験)
3つ目がReward (報酬)
4つ目がIdeomotor

やる気は後からついてくるー作業興奮ー

意外に思うかもしれませんが、往々にして身体は脳に対して主導権を握っています。

たとえいやいや始めたことだったとしても、やっているうちにだんだんとやる気が出てくるということを経験したことがある人もいるのではないでしょうか。

最初にこの概念を提唱したのが、ドイツの精神医学者であるエミール クレベリンです。
1902年《作業曲線》という論文で人間が単純な作業を継続した場合には,作業量と経過時間の間には一定の法則があることを発表しました。
これは、「作業興奮」として知られています。

作業興奮とは、人間の脳はどんなに嫌だったり興味が持てないことでも、手をつけ始めることで刺激されて自己興奮し、そのうち集中力が高まってくるというものです。

とりあえず、やる気が出ない状態であってもやり始めないと活動してくれない、つまりやる気が出ないということです。
「笑うから楽しくなる」「やるからやる気が出る」ということが起るということです。
つまり、まずは、とりかかるということが大切だということです。

始めるときに多量のものを全部やろうと思うと負担が大きくなって、よけいに始められなくなります。
なので、最初から全部やろうとか、難しいことをしようなんてことは考えないで、簡単なことをしばらくの間だけでもいいからやってみようという気持ちで始めることが大切です。
まずは、とりかかりのハードルを下げてみましょう。
どのくらいだったら自分にとって負担にならずにできるのかを見極めるのです。

いつもと違う経験で海馬を味方につける

淡蒼球のスイッチとなる経験ですが、これには海馬(かいば)が関係しています。
日常生活の体験は「海馬」を通じて、貴重な記憶や知恵として脳に貯えられます。
日常生活で初めて経験するような事態では、海馬が淡蒼球などを総動員して事態に対応します。
しかし、いつもと同じ経験では、わざわざ海馬が顔を出す必要はありません。

なので、日常生活で初めて経験するといったようないつもと違う要素を取り入れることが大切なのです。
それによって海馬が活性化し、淡蒼球を動かすことになるのです。そのためには、「形から入る」「身銭を切る」「人を喜ばせるためにやる」といったことがお勧めです。
そうすることで、いつもと違った要素を取り入れやすくなります。

脳の報酬系を利用する

Reward (報酬)です。ご褒美を与えることで報酬系を活性化させます。
ただ、これは、あまり使いすぎると「ご褒美のためにやる」というパターンができ、ご褒美自体が目的となってしまいます。
そのため、ご褒美がないときにはよけいにやる気がしなくなる可能性があります。

実際、いつも同じことだとそれを当然のことと思ってしまうというデータがあります。

やってもらって当然と思ってしまう

ケンブリッジ大学のシュルツ博士が行った実験です。
サルに餌を与えると脳幹部の中脳にある黒質(こくしつ)という場所にあるドーパミンを作る細胞が活発に反応します。ドーパミンというのは、快感をもたらす物質です。

つまり、サルが餌をもらえて喜んでいるということです。

そこで今度はサルに餌を与える直前に光で合図を出すようにします。
するとそのうち、サルは「光の合図の後に餌がもらえる」ということを学習します。

次に、サルが「光の合図の後に餌がもらえる」ということを学習した後に、また脳の活動を調べました。

すると、サルは餌をもらってもドーパミンを作る細胞の活動には変化がなくなっていたそうです。

つまり、餌をもらえても特に嬉しく思わない…餌をもらえて当然という状況になっていたわけです。

さらに、そこで、光の合図を出すけど餌を与えないというちょっと意地悪なことをします。

すると、ドーパミンを作る細胞の働きが通常よりも低下していたそうです。

つまり、当然餌がもらえると思っていたのに、もらえなかったからがっかりしているということです。

なんだか、身につまされます。
当然もらえると思っていたものがもらえない、当然やってくれると思っていたことをやってくれない、当然あると思っていたのにないというのは、期待を裏切られた感じがしてがっかりします。
最初はありがたく思えていたものが、恵まれていた環境に慣れてしまって、あるのが当然という状態になってしまったのでしょう。

モデリングでやる気を出す

4つ目のIdeomotorですが、これは強く念じることで無意識のうちに身体が動くとことです。

成功のイメージを具体的に描き、その自分に「なりきる」ことでやる気が引き出されるということです。

人は期待した通りの人になるということが知られています。ピグマリオン効果といいます。

同じIQの生徒であっても、担任の先生にこの子はIQが高く、将来伸びる可能性があると伝えられた子どもは、翌年の成績が良くなることがわかっています。
担任の先生がそう思うことによって、無意識のうちにその子に対する扱いが変わり、その子自身が自分のことをどう思っているのかというのが変わってくるからではないかと考えられています。

実際、心理学と言語学の観点から新しく体系化した人間心理とコミュニケーションに関する学問であるNLP(神経言語プログラミング)にもモデリングという手法があります。

これは、自分自身が望む結果を出している人の行動や考え方を真似て、なりきることによって、モデルと同じような結果を得る事を可能にするというものです。
つまり、自分自身が理想の状態になりきることで、自然とそこへ向かう行動をとりやすくなるのです。

やる気のスイッチを入れにくくする行動とは

玉川大学脳科学研究所の松元教授によると、やる気は大きく2つに分けられるそうです。

1つは、『外発的動機づけ』と呼ばれ、外部からの報酬によるものです。
つまりお金だったり商品だったり、他人からの賞賛だったりといったご褒美が動機となってやる気が出てきます。

そして、もう1つが『内発的動機づけ』です。
これは、行動自体が動機になるそうです。
つまり、報酬に関係なく、楽しいからするという自主的に行うものです。
私たちは、報酬をもらえたり、行動自体が楽しかったりすると快感を覚えて、脳は行動と快感を結びつけて記憶します。なので、次にまた同じ状況になった時に『やろう』という気になるのです。

ただ残念なことに、毎回、同じご褒美だと脳はそれ程喜びを感じなくなってしまいます。
というのも快感に関係するドーパミンは、予想外のいいことがおきるとたくさん分泌されるのです。

そして、やる気のスイッチを入れにくくする行動として、以下の5つを挙げています。
1) 失敗を何度も繰り返す
2) やりたくなるのを待つ
3) できなかった時に罰を設ける
4) むやみにご褒美を設定する
5) 睡眠不足で事に挑む

ご褒美の与え方にも工夫が必要なのです。

そして、いったん入ったやる気スイッチが続かない要因は、以下の5つだそうです。
1)誘惑の多い環境でやろうとする
2)こっそり一人で挑戦する
3)高すぎる目標を設定する
4)気合と根性を当てにする
5)好きな時に好きな場所でやる

やる気を持続させるポイントは習慣化です。
そのためには、決まった曜日、決まった時間、決まった場所でやり続けることが大切なようです。

そして、人が習慣化できるのは2~3個まで。

無理せず少しずつやるのが継続の秘訣かもしれません。

まとめ

やる気を出す方法についてまとめてみました。
なんとなくやる気が出ない、そんなときには試してみてもいいかもしれません。

参考
http://president.jp/articles/-/2325
http://www.news-postseven.com/archives/20140408_250620.html
Hollerman JR, Schultz W. Dopamine neurons report an error in the temporal prediction of reward during learning. Nat. Neurosci.1998; Aug 1(4):304-9