昔から子育てに関する悩みは尽きないものです。

特に、最近では子育てに関する悩みを気軽に相談することすら難しくなってきています。
年々核家族化が進み、昔のようにおじいちゃん、おばあちゃんが家にいて子育てに参加するという環境ではなくなっています。
核家族は、2005年前後から全世帯の約80%、2035年には90%にも上ると推測されています。

それに加えて、ご近所との関係もだんだんと希薄になってきています。

結果、ただでさえ大変な時期に悶々と一人で悩みを抱え込むということになりがちです。

人によって、抱える悩みの内容は違うかもしれませんが、そういうときのお父さんやお母さんに知っておいてほしいことを書いてみました。
どういうふうに子どもを育てたらよいのかという方法を書いたものは多くあります。
こちらでは、そういった方法論ではなく、脳の観点からお父さんやお母さんに知っておいてほしいあり方について書いています。

これを読むことで、子育て中のお父さんやお母さんが少しでも楽になってくれることを期待しています。

まずは自分が幸せになることから

突然ですが、子育てをする上で何か気をつけていることはありますか?

意外に思われるかもしれませんが、私は、お父さんやお母さんが自分自身をいたわり、大切にすることがもっとも重要だと思っています。
子どもにとって最も大切なのが両親からの愛情を感じられることであるのはいうまでもありませんが、お父さんとお母さんがどういう状態であるのかというのも大切です。
もしかすると、子どもに対して何をしてあげるのかということ以上に大切なことかもしれません。

一番身近な存在であり、自分の面倒をみてくれるお母さんやお父さんが幸せで、笑っていることは、子どもに安心感を与え、幸せを感じさせるものになるでしょう。
それは、脳の働きという観点からも納得のいくものでもあります。

人には周りの人たちが笑っていると自然と笑顔になるという性質があるからです。
これには、私たちの脳にあるミラーニューロンという細胞が関係しています。
ミラーという名前の通り、見ている相手の表情をうつして、無意識でまねしてしまうのです。

この反応が、かなりすばやく、「相手がどんな表情をしているのか」ということを意識するよりも先なのだそうです。
そのため、私たちが笑顔でいれば、相手も気づかないうちに笑顔になりやすいのです。
いっぽう、私たちが不機嫌な顔をしていれば、相手も不機嫌な顔になりやすくなってしまいます。

突然、バスの停留所で誰かが笑いだしたらどうなるのかということを調べた実験動画を見たことがありますが、まわりの人たちは全員つられて笑っていました。
私も似たような経験があります。特におもしろいことがあったわけではないのに、まわりにつられてしまったのです。

また逆に、「笑顔が楽しい気持ちを作る」ということも分かっています。

ドイツのオット・フォン・ゲーリテ・マグデブルグ大学のミュンテ博士が行った実験です。
次の女性の写真を見てください。

左側は棒を横に歯で噛んで、右側は唇で縦に挟んでいます。
そうすると顔の表情が左側では笑顔に似た感じになり、右側は沈うつな感じになります。この状態で脳の働きを調べました。

すると左のように棒を噛んだほうが、「快楽」に関係したドーパミン系の神経活動が活発だったのです。
つまり、より楽しい気持ちになっていたということです。
実際、漫画を読んで漫画のおもしろさに点数をつけてもらうと、笑顔を作っている(左)ときの方が点数が高くなるそうです。

要するに、相手が楽しそうにしていると自分も自然に笑顔になり、楽しい気持ちになるということです。そして、自分が楽しんでいると相手も笑顔になり、楽しい気持ちになってくるのです。

さらに、私たちが本当に楽しんでいるときには、普通のときと声の状態も変わってきます。
楽しいときには、声のトーンが高く、声も大きく、早口になる傾向があります。
そして、私たちが聞く声(音)というのは、扁桃体という感情を感じる場所にも連絡しています。つまり、自分が本当に楽しんでいるときの声は、相手を楽しくさせる効果もあるということです。

そう考えると、お父さんやお母さんが幸せを感じ笑顔でいることが、子どもたちを幸せにすることにつながるような気がします。

では、実際に赤ちゃんに接するお母さんが、無表情で何も話しかけなかったらどうなるのでしょうか。
ご想像のとおり、ものの数分もたたないうちに、それまでにこにこ笑っていた赤ちゃんが大泣きしてしまいました。

「だったら、つらいけど頑張って笑顔を作って楽しいふりをしなきゃ」と思うかもしれませんが、それではあまり効果が期待できません。
というのも、本当に身近にいる人の不安というのは、潜在意識がちゃんと感じとってしまう可能性があるからです。

デュッセルドルフ大学のパウゼ博士が行った実験です。試験前で緊張している人の汗と運動でかいた汗を被験者に嗅いでもらって、その時の脳の働きを調べました。

すると、試験前で緊張している人から採取した低濃度の臭いのサンプルは「人をいらいらさせる」ということがわかったのです。
そのためか、その匂いを嗅いだ人は大きな音を不意に立てた時に驚く反射も大きくなっていたそうです。
それだけ神経過敏になっているわけです。

要するに、意識的には気づかない程度の汗の匂いを介して、自分が持っている不安が相手の潜在意識に影響を与えてしまうのです。
それを考えると、不安は、感受性豊かな子どもたちに伝わってしまっても何の不思議もない気がします。

結局、無理して笑顔でいたところで子どもたちにはその不安はバレバレだということです。
つまり、お父さんやお母さん自身が本当に幸せを感じ、笑顔でいることが子どもたちの幸せのためには重要になってくるのです。

子どもに感情的になっても自分を責めない

とはいっても、『まずは自分が…』と思ってもなかなか厳しいのが現実です。
特にお母さんの仕事というのは、とっても大変です。
子どもが生まれたとたん、生活が一変するというのはよくある話です。
子ども優先になってしまって、自分のことなど構っている暇などなくなってしまいます。
トイレにさえ一人でゆっくり行けないということもよく聞きます。

フェイスブックで多くの方がシェアしていたので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、「世界で最もハードな仕事の面接」という動画があります。

ある仕事の面接風景の動画です。
その仕事の内容について、面接官は次のように説明しています。

「その仕事は、非常に大きな責任を担うことになるし、たくさんの素質が求められます。
その素質の1つが機動力です。その仕事では、ほとんどの時間を立ったまま過ごさなければなりません。
しかも、しょっちゅうかがまなければならない。
そして、ものすごい忍耐力が必要です。

そして、勤務時間はというと…週135時間。まあ、基本的には、1日24時間、週7日間労働と考えたほうがいいでしょう。
休憩はないです。
昼食も同僚がすませてからになります。

さらにこの仕事では、交渉力と対人関係を構築する力が求められます。
医療、金融、そして調理の深い素養も必要になるかもしれません。この仕事では、いくつもの役割を演じて、常に同僚に注意していなければならないのです。
ときには、同僚と夜通し過ごさなければならないこともあります。

仕事環境は、混沌としたものです。
それ以前の人生は忘れてください。
長期休暇はありません。
年末などは、さらに仕事が増えると思ってください。
さらに、その仕事は無給です。

その代り、この仕事で築く人間関係、そして同僚を助けることで得られる喜びは計り知れないものです。」

どういう職業か分かりますよね。

そうです。
お母さんです。

客観的にこの仕事を見て、全てを完璧にやろうと思ってできると思いますか?

しかもこの仕事に対して、周りはあまり評価してくれないかもしれません。
多くの人が全てを完璧にしたいと思い、頑張ってそれでもできない自分を責めています。
もしかするとあまりの仕事量の多さに頑張ることすら難しいかもしれません。

お母さんであっても肉体を持った人間です。
人はやることが多すぎて、いっぱいいっぱいになると心のゆとりがなくなるのは、普通のことです。

なのに、イライラする自分を責めてはいませんか?

それは本当に責められることなのでしょうか?

さっきのような労働環境下で働いていてもそれは責められることでしょうか?

手を抜ける仕事がないか考える

そうは言ってもと自分を責めたくなるかもしれません。

でも、私たちの脳は、残念ながらそこまで優秀にはできていません。

いろいろなことをしようとする時、脳の前頭葉はフル回転します。でも、前頭葉の機能にも限界はあります。
やることが多すぎていっぱいいっぱいの状態の時に負荷をかけると容量オーバーになり、感情的になりやすくなると言われています。

しかも、睡眠不足というのがそれに追い打ちをかける可能性があります。実は、睡眠不足だとイライラしやすいということがわかっています。

知っていますか?

お父さんとお母さんでは、子どもの泣き声に対する脳の反応が違うことを。

夜中に赤ちゃんが泣いていても、お父さんは気づかずに寝ていることもありますよね。
決して子どもに対する愛情が欠けているというわけではないのです。

アメリカで男女18人に対して行われた実験です。
実験の参加者は、すでに親となっている人もいれば、そうでない人もいました。
参加者は、何も考えずぼ~っとするように促されます。そして、その状態の時に録音してあった幼児の泣き声を流し、その時の脳の働きを調べました。
すると、男性では子どもの泣き声を聞いてもぼ~っとした状態を保てたのに対して、女性はその声によってぼ~っとしていることができなくなっていたというのです。

自分の赤ちゃんの声を聞き分けるというフランスで行われた実験もあります。
母親が98%という高い確率で自分の赤ちゃんの泣き声を聞き分けられるのに対して、父親の場合は、4時間以上いっしょにすごしていれば90%、4時間未満だと75%にとどまっていたそうです。
これは、母親全員が赤ちゃんと過ごす時間が4時間以上だったので、どれくらい赤ちゃんと一緒に過ごすかと関係しているともいえるでしょう。

2つの実験から、母親は生まれ持って子どもの声に反応してしまうのではないかと考えられます。
それに対して、父親は自分で意識しないとその声をスルーすることが可能なのかもしれません。
つまり、父親らしくなるには、どのくらい主体的に関わるかが重要だということです。

そして、眠っている時というのはどうしても無意識になっています。
そのため、お父さんは赤ちゃんの泣き声に気づきにくいのかもしれません。
それに対して、お母さんが赤ちゃんの泣き声に気付くかどうかというのはかなり本能的なものです。

これは、赤ちゃんにとって母乳をくれるお母さんに気付いてもらうことが重要であるため、自然に備わってしまっているのかもしれません。

ただ、この女性に備わっている資質のために同じ部屋で眠っていたとしても、お母さんの方が睡眠不足になりがちです。
そして、この睡眠不足がお母さんをイライラさせるもとになってきます。

では、睡眠不足が実際の私たちの脳にどのような影響をもたらすのでしょうか?

これに関しては、2007年にアメリカのハーバード大学のマシュー・P・ウォーカーらのグループが報告しています。

26人の学生を「睡眠充足グループ」と「睡眠不足グループ」の2つのグループに分けます。
睡眠不足グループの学生には、一晩一睡もせずに徹夜をしてもらいます。
そして、その両グループの学生に凄惨で不愉快な映像を見てもらいます。
すると、その2つのグループで脳の活動に違いが見られました。
睡眠不足グループでは扁桃体が異常に活性化し、前頭前野の機能も低下していました。

扁桃体というのは、怒りなどのネガティブな情動に関係する場所です。
そして、前頭前野(内側)は自分が何であるかという自己認知に関わっていて、扁桃体を鎮める働きもしています。

つまり、ネガティブな感情を感じる場所が異常に活性化して、更にそれを抑える場所の機能が低下しているという事です。

しかも、自己認知の機能も低下しているので、「我を忘れ」て周囲に当たり散らしてしまうという事が起きやすいわけです。

まずはこんな大変な仕事をしている自分を認め、褒めてあげましょう。

その上で、手を抜ける仕事はないか考えてみてください。

心に余裕をもって子どもに接することは重要です。

子どもの脳の発育の観点から考えても、穏やかな気持ちで愛情を持って接することが大切です。
実際、幼児期に母親の愛情をふんだんに受けることで海馬の神経細胞が増えることもわかっています。
逆に、ストレスがかかると記憶を司る海馬や前頭葉に負担がかかるのです。

母親が愛情を持って子どもに接することで、子どもがストレスに強くなることを示唆する実験もあります。

自分の時間を持つ

では、24時間子どもとずっと一緒にいることが果していいことなのでしょうか?

もしかするとそうではないかもしれません。

1950年代終わりから1960年代初めにかけて行われた実験です。
生後すぐから21日間、毎日子どものラットをケージから出して、15分間だけ母親から隔離を経験させたものです。
するとたった15分間の隔離にも関わらず、行動と性質に生涯にわたる変化を生じたそうです。

どういう変化かというと、隔離を経験したラットはストレスに対して強かったそうです。

えっ! 逆じゃない?? 隔離されたのにどうしてストレスに対して強くなるの? と思いませんか?

その理由は、母ラットにあります。

というのも、隔離された子ラットの母親は、子ラットに対してリッキング(なめる)やグルーミング(毛繕い)を行う頻度が高かったそうです。

母親から隔離された子ラットがケージから出されている間、ヒトには聞こえませんが母ラットには聞こえる超音波領域の声で鳴き、それを聞いた母ラットが熱心にそのような行動をとるのではないかと推測されています。

まるで、赤ちゃんが大声で泣いた時に人間の母親が一生懸命あやすように…。

ただ、もちろんラットにもリッキングやグルーミングを行うかどうかに関して個別差はあります。

そこで、実際どちらがストレスに関係しているのか?ということが問題になると思います。

隔離なのか? 母ラットの態度なのか?

神経科学者のマイケル・ミーニーが行った実験にその答えがあります。

母ラットのリッキング頻度が高かった子ラットと低かった子ラットが成人した時のストレスの反応を調べています。
母ラットが頻回にリッキングをしていた子ラットは、ストレスに強く、好奇心が強く、穏やかで、精神的に安定し、進んで新しい環境を探索したそうです。

いっぽう、無関心で子どもをかまわない母ラットに育てられた子ラットは、怖がりでストレスに弱く、精神的に脆弱なラットに成長しました。
些細なストレスに恐々とし、簡単に驚き、慣れない場所を怖がり、初めての状況に直面すると恐怖で身をすくめ、探索の意志がなかったそうです。

子どもといっしょに過ごす時に言葉と身体で愛情示すというのが大切ってことです。

これは、幸せホルモンとも言われる「オキシトシン」が、家族の団らんや相手に触れること、素直に感情を表現することで増えることからもわかります。

自分がいっぱいいっぱいになって、イライラしてしまうより、気分転換をして、その分一緒にいる時に愛情をいっぱい注いであげるのがいいとは思いませんか?

まずは自分の時間を持って、心にゆとりのある状況を作るようにしましょう。

子どもを信頼する

 

子どもを信頼するということもとても大切です。
というのも実は、期待することによって、相手もその期待にこたえるようになるという現象があります。
これには、ピグマリオ ン効果という名前がついています。

1960年代に海外でされた実験です。
小学生に知能テストをしました。
そして、その担任に「このテストは将来の学力の伸びが確実 に予測できるものです。
まだ研究中なので結果を教えることはできませんが、先生にだけ、将来伸びる子の名前を教えましょう。」と伝えます。
しかし、実際は、そこで『将来伸びる子』として教えられた数人の生徒は、知能テストの成績に関係なく、ランダムに選ばれた子どもでした。

ところがです。
それから1年ほどしたあとで、同じ生徒たちに再び知能テストをした結果が、驚くべきものだったのです。
というのも『将来伸びる子』として名前をあげられた子どもは、 そうでない子どもに比べて明らかに成績が上がっていたのです。

つまり、相手に対して期待することで、無意識のうちに相手に接する態度が変わってしまい、それによって学習効果が変わったのではないかと考えられるのです。

これは、子どもにだけおきる現象ではありません。
老人ホームでも「治る見込みが高い」と診断された人の方が、よくなるという報告もあります。

驚くことに、人だけでなく、ネズミにも同様の現象がみられるのです。
迷路実験を行う際に、学生にネズミを2つのグループに分け、1つは「よく訓練されたネズミ」、もう一方は「のろまなネズミ」と言って渡します。
すると同じ系統のネズミにも関わらず「よく訓練されたネズミ」と言って渡されたネズミの方が成績が良いそうです。

不思議だと思いませんか。

どうしてそうなるのかという疑問が出てきますよね。

実は、この結果にはちゃんと理由がありました。
学生をよく観察したところ、学生は「よく訓練されたネズミ」と言われたネズミに対して、無意識に丁寧に扱っていだのです。

こちらが相手をどう思うかで、どれくらい能力を発揮できるかが変わってくるということです。

ただ、期待しすぎも問題かもしれません。

子どもの脳の特性を知ろう

子どもの脳は大人とは違います。

まだ発達の途中なのです。
感情的だったり一つのことに集中できなかったりするのはそのためです。
まだその機能が十分には発達していないのです。

つまり、子どもは自分勝手で自分の感情のおもむくままに行動するというのが普通の状態です。
それに付き合う大人は本当に大変だと思います。
しかし、そこで無理に感情をコントロールさせようとして怒るというのは、まだ全く話せない子どもに「なんで話せないの?」と言って怒るのとあまり変わりがないということです。

とうぜん子どもとは毎日いっしょにいるわけですから、ときには感情的に怒ってしまうのも仕方がないことです。
子どものために自分だけが感情をおさえつけるのには無理があります。
ただ、大人の自分たちが感情をコントロールするのが難しいだけでなく、子どもにとってはもっと難しいのです。

そのことを理解してあげましょう。
決して両親を困らせようとしてわざとやっているわけではないのです。

私たちの脳の中に前頭葉という場所があります。
そこは、ものごとを考えたり、判断したり、計画を練ったり、戦略を立てたりするのに重要な場所です。
ある意味、私たちの理性をつかさどる場所とも言えます。

その前頭葉が、子どものうちは十分には発達していないのです。
そのため、子どもは既存の概念にとらわれることがありません。驚くような創造性を発揮し、大人には到底考えつかないような発想や行動をします。
その代わり理性よりも感情が優先し、あちらこちらに注意が移ってしまいます。

実際、私たちの前頭葉が発達し始めるのは、生後6カ月からだとされています。
1歳ごろになるとこの前頭葉の発達によって、感情を司っている大脳辺縁系の衝動を少しずつコントロールできるようになってきます。
そのため、おもちゃを2つ見せてもどちらか1つを選ぶことができるようになるとされています。
ただ、この前頭葉が完全に発達するにはかなり時間がかかります。

脳の神経細胞は突起を伸ばし、それでお互いに情報のやり取りをしています。
そして、その神経細胞の突起には、それを包む髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる鞘があります。
髄鞘は情報を素早く伝えるのにとても重要です。
要するに髄鞘があるのとないのとでは、情報の伝わる速度が全く違うのです。
この髄鞘ですが、前頭葉で完成するのは成人してからと、脳の中でもっとも完成が遅い領域でもあります。

そのため、前頭葉の髄鞘が完成していない子どものうちは、理性を司る前頭葉から感情を司る辺縁系に指令を伝えるのに時間がかかります。
なので、青少年というのは、大人よりも感情に左右されやすく、衝動的に行動しやすいのです。

だから、小学生くらいの子どもが自己中心的で、感情をコントロールできないのはごく普通のことです。
その時期の子どもに「怒っちゃだめよ」「泣くんじゃない」「我慢しなさい」と感情を抑えるようなことを言っても、どだい難しいわけです。

確かに、そういうふうに子どもに言うことで、自分で感情をコントロールできるようにはなるかもしれません。
しかし、それは「親から怒られる」という不快な状況から逃れるために無理をして演じているのではないかといわれています。
つまり、本当に理性の部分で抑えているのではないということです。

そして、子どもにとって、人の話を聴くというのも大変な作業になります。
子どもでは、何かに夢中になると他人の話を聴いていないということがよくあることです。

というのも、他人の話を聴くためには、注意の集中が必要です。
注意の集中に大きな役割を果たすのは、網様体と呼ばれる場所です。
この場所が完成するのは、思春期かその後とされています。
そのため、思春期前は落ち着きがなく、注意力が長く持続しないとされています。

イギリスのUCL Institute of Neurologyのニーリ・ラヴィー教授が⒕歳以下の子どもたちを対象に行った実験です。
それによると、子どもが何かに気を取られていたり、注意を奪われていたりすると、大人が言っている言葉が聞こえなくなってしまうそうなのです。

子どもの注意力は大人に比べるととっても低く、その状態はまさに「何も見えていない状態」とほぼ同じらしいのです。

子ども時代を思い返すと身に覚えがあるという人もいるのではないでしょうか。
決して、聞こえないふりをしていたわけではないのです。

子どもの脳の発達に重要なこと

脳の発達には、豊かな環境というのはとても大切です。
特に、ニューロンがどんどん新しく作られる時期ではこのことが重要になってきます。
というのも、豊かな環境の方が活発に新たなニューロンを作る可能性があるからです。

脳は、よく使う経路は強化され、使わない経路は廃れていきます。それを脳の可塑性といいます。
神経回路が完全に出来上がっていない子どものうちは、脳の中での変更も起こりやすくなっています。
外からの刺激によって、脳の中で覚えたり感じたりする神経回路が集中的に作られたり、組み換えが盛んにおこなわれます。

このような時期を臨界期といい、学習するには最適です。
一般的に言葉の臨界期は6カ月~12歳。絶対音感は3歳~9歳前後といわれています。

1940年代にカナダ人のドナルド・ヘップ博士は、実験動物のラットが環境によって他のラットと違う傾向を示すようになることに気づきました。
どうやら、彼は同じ両親から生まれたラットを数匹、ペットとして自宅に連れ帰っていたそうです。
そうしたところ、ペットにしたラットはそのうち実験用のゲージで残されたラットとは違う行動をとるようになったというのです。

では、ラットにどのような違いが出てきたのでしょうか?

実は、ペットのラットのほうが、好奇心が大きく、恐怖心が少なく、探究心を示す行動を示すふるまいをしていたのです。

実際に環境によって脳の働きが変わるということを調べた実験もあります。
カリフォルニア大学バークレー校のマーク・ローゼンツヴァイクの研究チームが行ったものです。

迷路を解く能力にたけた種類のラットを12匹ずつ3つのグループに分けます。
① ゲージ内に遊具や迷路を与え、研究者が頻繁に接触する
② 暗くて無音の孤立した環境に置く
③ 簡素なゲージに兄弟2匹ともに入れる

すると、社会的・認知的に豊かな環境におかれたラットでは、他の2つの状況に比べて明らかに脳の神経細胞がある皮質が厚くなっており、重さも重くなっていたのです。

では、人にとって豊かな環境というのはなんでしょうか?

豊かさというと物質的な豊かさに目が行きがちです。
しかし、家の中が雑然とし、物があふれている状態は、決して豊かな状態とはいえません。
特に最も脳が育つ時期においては、そうでしょう。

赤ちゃんの行動範囲を考えてみてください。
両親とのふれあい、顔、声などが、赤ちゃんの五感を刺激することになるということは明らかでしょう。
おもちゃがいっぱいあったとしても、家の中で会話がないとしたら、それだけでも聴覚的な刺激は少なくなります。

よく子どもの好奇心を育てるには、子どもの話を聞くことが大切だということがいわれていますが、それもこういうところからきているのかもしれません。
とはいっても、日々繰り返される子どもの「なんで?」「どうして?」という疑問につきあうのは、なかなか大変なことだと思います。

無理のない範囲で誠実に対応していくことが大切です。
そして、そのときのポイントは早く答えすぎないこと、多くを答えすぎないことだそうです。
子どもが自分で考える余地を残しておくということも必要ということです。

また、子どもの話をよく聞くことで、興味の対象を把握しやすくなり、より才能を伸ばしてあげられるようになるかもしれません。

まとめ

子育てで忙しいと気持ちに余裕がなくなるのは、普通のことです。まず自分にとって大切なものは何かということを考えてみてください。
そして、それ以外のことは、思い切って手を抜いてみましょう。

何がつらくて、どうしたいのかは人それぞれです。
子どもの状態でも変わってきてしまいます。子どもを大切にするのと同じように自分も大切に扱ってあげることが大切です。

そうすることで、気持ちにゆとりを持って、子どもを信頼して見守ってあげるということも可能になってきます。

参考)

  1. 脳の取扱説明書: 木ノ本景子 著: みらいパブリッシング
  2. ビジュアル版 新・脳と心の地形図: リタ・カーター 著: 原書房
  3. 脳には妙なクセがある: 池谷裕二 著: 扶桑社
  4. 「脳」を変える「心」: シャロン・ベリー 著: バジリコ株式会社
  5. 器が小さい人」にならないための50の行動: 西多昌規 著: 草思社
  6. Alexander Prehn-Kristensen et al. Induction of Empathy by the Smell of Anxiety. PLoS One, 4: e5987, 2009
  7. Rosenthal, R. & Jacobson, L. Pygmalion in the classroom, Holt, Rinehart & Winston 1968
  8. Rosenthal, R., & Fode, K. The effect of experimenter bias on performance of the albino rat. Behavioral Science, 8, 183-189.1963
  9. Anna Remington et. al. I can see clearly now: the effects of age and perceptual load on inattentional blindness. Front. Hum. Neurosci., 23 April 2014
  10. Susan Scutti. Gender Matters: Crying Infants Trigger Different Reactions From Men And Women. Medical Daily May 6, 2013 02:15 EDT
  11. http://youpouch.com/2014/04/21/189496/
  12. https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=apzXGEbZht0