病気やけがの治療をすることを手当てと言います。
これは昔、患部に手を当てて治療していたことからついたとも言われています。

西洋医学の観点から考えるとナンセンスとも思える行為ですが、案外、まったく意味がないわけではないようです。

手を握ると苦痛が和らぐ

実は、大切な人に手を握ってもらうと苦痛が和らぐという報告があります。

アメリカのバージニア大学のJames A. Coan博士らが16人の結婚している女性に対して行った実験です。

ランプが点灯したら被験者の手に軽い電気刺激を加えます。
そして、その時の脳の活動をfMRIという脳の機能を調べる機械で調べました。

何回か電気刺激を繰り返すと、そのうち電気刺激を加えなくても、ランプが点灯しただけで怖がるようになります。
条件反射ですね。
このとき、脳は嫌悪に関係する島皮質(とうひしつ)という場所が活性化しています。

そこで今度は、同じように電気刺激を加えるのですが、もう一方の手を旦那さんに握ってもらいます。
すると、恐怖の反応が減って、脳の島皮質の活動も減ったのです。
実際、被験者に尋ねると、「今度は痛くなかった」と答えるそうです。
そして更に面白いことに、手を握るのが見知らぬ人だとその効果はみられないのです。

しかも、DAS (Dyadic Adjustment Scale)という「奥さんからみた旦那さんの評価」が高いほど、つまり奥さんの旦那さんに対する評価が高いほど鎮痛効果が高いこともわかっています。
信頼している人、愛している人だけが持っている「愛のちから」なのかもしれません。

もちろん、強い痛みの場合には、いくら愛情があっても効果は感じにくいとは思いますが、病人の手を握るというのは単なる気休めではないということです。

なぜ手当てが効くのか

親しい人が手を当てると痛みが和らぐという現象をもたらしていると考えられているのが、オキシトシンと呼ばれる物質です。

オキシトシンは、幸せホルモンとも呼ばれ、関節の痛みや日ごろのストレスを大きく緩和することが分かっています。
そして、オキシトシンは、親しい人に体に触れられた時などに、脳から出てくるのです。

参考)
James A. Coan et. al. Lending a hand social regulation of the neural response to threat: Psychologial science Dec. vol 17 (12) P1032-1039, 2006