私たちは知らず知らずのうちに周りの環境やいっしょに過ごしている人たちからの影響を受けています。

諺に「朱に交われば赤くなる」といったものがあります。
これは、朱色が混じれば赤くなるように、付き合う人の良しあしによって善悪どちらにも感化されるものだといった意味です。

他にも同じような意味の「麻の中の蓬(よもぎ)」、「水は方円(ほうえん)の器に随(したが)う」といった諺がありますが、昔の人たちは経験的にそのことを知っていたのかもしれません。

では、私たちは、どのくらい影響を受けているのでしょうか、それはどうしておきるのでしょうか?

カメレオン効果―無意識の力ー

私たちは、無意識のうちに一緒にいる人姿勢、クセ、表情をまねる傾向があります。
これはカメレオン効果と呼ばれています。

1999年にChartrand博士とBargh博士は、カメレオン効果について詳細に調べています。
実験に参加した78名は 「実験関係者と単におしゃべりをするよう」 指示されています。
実は、この関係者は 「会話を通してしぐさを変える」 よう指示されています。
参加者と話をしている間に笑ったり、顔に触ったり、足を揺らしたりします。

すると、参加者たちは、全く赤の他人である関係者のしぐさを自然にまねしたのです。
相手がそういうしぐさをしているということを意識していないにもかかわらずです。
これは、実験協力者が笑顔であってもなくても関係はなかったそうです。
その後の実験で、まねるのは身振り手振りだけでなく、その速度もまねることが分かっています。

誰と食べるかで食事の量が変わってしまう

それ以外にも、私たちは一緒に食事をする人の摂食行動までまねをしています。
食べる動作だけではなくて、相手が食べる量によって、自分が食べる量が増えたり減ったりするようです。

そしてこれは、満腹でも24時間の絶食後でも変わらなかったそうです。
つまり、私たちがとる食事の量は、自分の身体が欲しているかどうかだけでなく、誰と一緒に食べるのかでも変わってきてしまう可能性があるのです。

まねることで学んでいる

人をまねするこの能力は、生後2週間たったころには観察されています。
そのころには、瞬きをしたり、舌を出したり、感情らしいものが顔に出たりと、顔の動きをある程度まねします。
「学ぶ」という語源が「まねぶ」とあるように、このまねをするという行動は、技術の習得にはとても重要になってきます。
また、それ以外の効果もあります。

まねることで信頼関係を築いているーミラーリングー

聞いたことがある方もいると思いますが、相手の行動を気づかれない程度にこっそりまねしたとき、その人に対する好感度があがるということが分かっています。
これは、神経言語プログラミング (NLP) という心理学でも、相互の信頼関係(ラポール)を築くための手法(ミラーリング)として紹介されています。

さりげなく相手にまねされると、相手の意見に賛同しやすくなるとされています。
実際、まねをした相手が炭酸飲料のセールスマンの場合、その炭酸飲料を高く評価し、やり取り中にそれを飲む回数が増えるそうです。
さらには、注文をお客の言った言葉のまま復唱したウェイトレスのほうが、別の言葉に置き換えたウェイトレスよりもチップを多くもらったという報告もあります。

同じものに注意を向けると脳も同調する

私たちは何かと目で合図することがあります。
日本語には、「目で会話をする」とか「目と目で通じ合う」という言葉があるように、特に意識することなく、相手の目を見て言外の意味をくみ取っています。
この能力は相手とのコミュニケーションを円滑に行う上でも重要です。

そして、この能力、実は赤ちゃんの時からすでに備わっています。
ドイツのライプツィヒで、脳科学の専門家が24人の赤ちゃんにテストを行い、その時の脳波を測定しました。

何をしたかというと赤ちゃんにいろんな表情の時の目の部分だけの画像を見せました。
すると、明らかにその違いが脳波で現れたそうです。幸せな表情の時の目よりも恐怖でおびえている時の目に対する反応が大きかったのです。

人は、幸せな時が最も白目が小さく、恐怖を感じた時には白目が大きくなります。
赤ちゃんの時にすでにその目の合図を受け取る力があるということです。

では、大人になって、目と目で通じ合っている時、私たちの脳はいったいどのように働いているのでしょうか?
生理学研究所と福井大学が共同で、dual fMRIという2人同時に脳機能を調べることができる機械を用いて、この機能を調べました。

お互いに目を見つめ合い、一方が目配せによって自分が注意を向けている場所を相手に伝え、両者が同じ場所に共同で目線(注意)を向ける時の脳活動をリアルタイムで記録しました。

すると、同じ場所に注意を向けた時、脳の右前頭前野という場所の活動に同調がみられました。
前頭前野という場所は、「人を人たらしめている場所」とも言われ、思考や創造性を担う場所です。

そこで、知的障害はないけれど、目で相手の意図をくみ取ることが苦手な高機能自閉症者ではどうなのかを調べました。
高機能自閉症者と健常者がペアになって同じことをしました。
すると、健常者どうしで見られたような、右前頭前野の同調は見られなかったのです。

私たちは、「目と目で通じ合っている」時、本当に脳も同じように通じ合っていたということです。

まとめ

私たちは、知らず知らずのうちに人の影響を受けています。
誰といっしょに過ごすのかは、自分の人生を決めるうえで重要なのかもしれません。

参考
脳の取扱説明書 p138
http://buzzmag.jp/archives/13221
http://www.nips.ac.jp/conten…/release/entry/2012/…/-mri.html
http://www.dailymail.co.uk/…/Babies-recognise-fear-eyes.html
Chartrand, T.L. & Bargh J.A. (1999). The chameleon effect: The perception-behavior link and social interaction. Journal of Personality and social Psychology, 76(6), 893-910