人は社会的動物です。

そのせいか、「人の悩みのほとんどは人間関係からくる」とまでいわれています。仕事に対する悩みにおいてさえも、そのほとんどは人間関係だとされています。

その人間関係を築くためのツールとして重要なのがコミュニケーションです。

そこで、そのコミュニケーション力を上げる方法についてまとめてみました。

コミュニケーションとは

そもそもコミュニケーションとは何なのでしょうか。

コミュニケーションの語源はラテン語で「分かち合う」を意味するcommunicareです。
一般的な定義としては、気持ち・意見などを言葉などを通じて相手に伝えることとされています。

しかし、真にコミュニケーションを考えるとき、単にどのような言葉を発するのかということは、それほど重要ではないようです。

マインド・リーディングで有名なトルステン・ハーフェナーは、その著書『心を上手に透視する方法』の中で、「コミュニケーションとは、我々が何を言うかではなく、ほかの人にどう受け取られるかです」と言っています。

おっしゃる通りです。

確かに、相手に伝わらなければ、発している言葉は単なる独り言でしょう。

非言語の持つ重要性ーメラビアンの法則ー

コミュニケーションのプロセスにおいて、メッセージが発せられるレベルにはいくつかありますが、その中で重要なのが次の3つ、3Vともいわれています。

Visual 視覚情報:身体言語のレベル(見た目:表情、視線など)
Vocal 聴覚情報:声のレベル(声と話し方:質・速さ・声の大きさ・口調など)
Verbal 言語情報:内容のレベル(言葉の意味、話の内容)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアルバート・メラビン教授が声と身体言語が相手にどれくらい影響を与えるのかを調査しています。
それによると、Visual 55%, Vocal 38%, Verbal 7%だそうです。

これは「メラビアンの法則」と呼ばれています。

なんだかショックですよね。
話の内容に関することは、たった7%なのです。

この実験では、「行為・反感などの態度や感情のコミュニケーション」において「メッセージの送り手がどちらともとれるメッセージを送った」場合で行っています。
そのため、一般的な会話や事実、要望を伝える場合、指示命令をするといったコミュニケーションには当てはまらないとされています。

つまり、一般的にメラビアンの法則は拡大解釈されている傾向があるということです。
しかし、それでも、コミュニケーションにおいて非言語がいかに重要かを示すものであることは確かでしょう。
いくら良い内容でも、伝わらなければ、あまり意味がありません。

では、相手に話の内容に注意を向けてもらうにはどうしたらいいのでしょうか?

そこで重要になってくるのが、視覚情報であったり、聴覚情報であったりするわけです。
まぁ、確かに、目を輝かせて、楽しそうに話をされると、全く興味がないことでも聞き入ってしまいます。

脳からみたコミュニケーションスキルを高める方法

覚情報が会話の印象に影響を与えるのは、人の持つ脳の習性が多分に影響しています。

私たちは人の顔や視線に特に敏感にできています。それのみを認識する紡錘状回顔領域という部位があるくらいですから。

そして、ミラーニューロンによって、相手の表情を自然に模倣し、同じような感情を抱くという特性もあります。
ちなみに、ミラーニューロンは、他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をする神経細胞です。

また、聴覚情報も感情に関わる扁桃体へ情報を伝えています。声のトーンや音楽によって、いろいろな感情が出てくるわけです。

つまり、言葉だけで伝えているのか、心から伝えているのかで、相手に伝わる度合いが全く違うということです。
私たちは、相手に何かを伝えるとき、話の内容にばかり、意識を向けがちですが、多少支離滅裂なことを言っていたとしても、気持ちがこもっていれば伝わるということです。

プレゼンテーションの内容がいくら良くても、伝え方によっては、全く伝わらなかったり、パートナーへの問いかけに返事をするとき、言葉としては適切であっても、そこに気持ちが乗っていなければ、逆に怒りをかってしまうということになるのです。

話のリズムがあってくると心のリズムもあってくる

気持ちを伝えるといっても難しいこともあるかもしれません。

そういうときには、話すペースを意識するのがよいでしょう。

親しい人とコミュニケーションをとっている場合、話しや行動のリズムが無意識のうちに合いやすいとされています。
逆に、仲良くなりたい人とコミュニケーションをとるときにリズムをあわせることで、親近感を持ってもらうことができます。

ペーシングと呼ばれる手法になります。

これに関連して、理研脳科学総合研究センターの川崎真弘研究員らの研究チームがおもしろい実験結果を発表しています。他の人との無意識なリズムの同調が脳の活動にどのように関わるのかということを調べたのです。

2名の日本人被験者をペアとした合計20ペアに対して行っています。
発話のリズム以外に実験に影響を与える要素を排除するため、発話の内容は意味のないアルファベットにしました。そして、2人に交互にアルファベットを発話してもらいます。

もともとこの2人の発話リズムは違っていました。
ところが、交互に発話していくうちに発話リズムが同じになってきました。
おもしろいことに一定のリズムで発話するような機械が相手だと、発話リズムは同じにはならないそうです。

さらに興味深いのが、この2人の脳波です。
発話リズムが同じになるペアほど脳波リズムも同じになっていたのです。
言葉のリズムが合うと脳まで同じようなリズムをとっているというのは、何とも不思議な感じがします。

しかも、話をしている相手の事を深く理解しているほうが、この現象が強く現れるそうです。

プリンストン大学の神経学者Greg Stephens と Uri Hassonが、2010年7月27日の the National Academy of Sciencesに発表したものです。
2人の被験者がそれぞれ話をしている時と話を聴いている時の脳の活動をfMRI(ファンクショナルMRI)を使って調べました。

すると、話をしている人と話を聴いている人では、同じような脳の活動をしていることがわかりました。
しかも、話を聴いている人がその話の内容に共感しているのかどうかで、相手の脳の活動に同調するかどうかが変わってきたのです。

聞き手が相手の話に共感しているほうが、より相手と同じような脳の活動をしていたそうです。

大切なのは相手の話を聴くこと

話を伝えることについて述べてきましたが、実は人と会話するうえでは、何の話をするのかということ以上に相手の話を聴くことが重要になってきます。

聞いたことがあるかもしれませんが、トップセールスマンほど自分から話をしないと言われています。

最初にこの話を聞いた時には、驚きました。
トップセールスマンの人って、話がとても上手なんじゃないかと思っていたのです。
それで、言葉巧みに勧められて、気がつくと買っちゃうみたいな、勝手なイメージを持ってました。

アメリカのウェズレイ大学で行われた実験によると、人は性別に関わりなく、『相手に多く話してもらう時間が長いほど、つまりは聞き役に徹するほど、相手はあなたのことを好きになる』という傾向があるそうです。

トップセールスマンの人たちは、相手の話をよく聴くので、好感をもたれています。
似たような商品であれば、誰でも、好感が持てる人から買いたいと思うものです。
となると、セールストークをする前から勝負はついているわけです。

では、どうして人は話を聞いてくれる人に好感を抱くのでしょうか?

私たちには、他人に認められたいという承認の欲求というものがあります。
そのため、自分に興味を持ってくれる人、自分を受け入れてくれる人、自分の存在を認めてくれる人に好感を持つとされています。

話をよく聴くということは、その人に興味を持っているという事をわかりやすく示す行為なわけです。

まとめ

人間関係を築くうえで欠かせないコミュニケーション力。
コミュニケーションのスキルが磨かれると、自分自身との自己対話もうまくなるともいわれています。
話す内容よりも相手の話を聴くことが大切といわれていますが、自分自身とのコミュニケーションにおいても、まずは自分の本音を聴いてあげることが重要なのかもしれません。

参考)
脳の取扱説明書 P137, P183
Mehrabian, A. Silent Messages. Wadsworth, Belmont, California, 1971
http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130422_2/
Greg J. Stephans et. al. Speaker-listener neural coupling underlies successful communication. Proceedings of the National Academy of Sciences of United State of America; 107 (32), 14425-14430, 2010