私たちは日々の生活で多くのストレスにさらされています。
このストレスと食事には、密接な関係があります。

ストレスのせいで食欲がなくなったり、逆にやけ食いしたりと、ストレスが原因となって食生活が乱れるということはよくあることです。

また、ストレスから身を守るためには、ふだんの食事が重要になってきます。
心身に不調をきたす前に食生活を変えることでちょっとした予防ができるかもしれません。

食事とストレスの関係について、まとめてみました。

ストレスと食欲

急性ストレスでは交感神経が働き、食欲を抑えます。

重要な会議でプレゼンテーションをするときなど緊張する場面で、心臓がドキドキして、顔が紅くなったり、喉が渇いて手に汗をかいたり、胃がキュッとなったりしたことはないですか?

これは、交感神経が働いているために起こってきています。

このようなときには、食欲はなくなり、のんびりと物を食べることは考えられません。
これが急性のストレスを抱え込んだときの状態です。

この緊張の場面から解き放たれしばらくすると、ホッとし、無性にお腹が空いてきたという経験をした人も多いのではないでしょうか。
これは副交感神経の働きによって起こってきます。

私たちは、交感神経と副交感神経という自律神経がバランスをとることで、ストレスに適切に対応しているのです。

では、慢性のストレスでは、私たちの身体はどのような反応をするのでしょう。

たとえば、職場の上司にいつも怒られてばかりで、ビクビクしながら仕事をしている場合、身も心も次のストレス(上司の怒り)に備えて、警戒体制を取り続けます。
脳からホルモン系へ命令が出されてストレスホルモンが放出され、戦いに備えて脂肪が貯め込まれるのです。

実際、肉体を使って敵と戦う必要があった時代であれば、これをエネルギーとして効率的に使えたわけですが、現代のように身体を動かすことのない精神的戦いにおいては、この有り余るエネルギーは単に脂肪となって腹回りにつくことになります。

さらに休憩時間や職場を離れた後に「甘い物や脂っこい物を食べて」または「(酒を)飲んで」ストレス解消し、肥満への道を歩む人もいれば、逆にストレスから食べられなくなり、痩せる人もいます。

トリプトファンをとって、ストレス知らず?!

心のバランスをとるのに必要とされる「セロトニン」という物質をつくるためには、毎日の生活、特に食事が重要になってきます。

セロトニンというのは、神経伝達物質の1つです。
神経伝達物質は、神経細胞が情報のやり取りをするのに重要な物質です。
セロトニンは、ドーパミンやノルアドレナリンの暴走を抑え、心のバランスをとるように働くとされています。
実際、セロトニンが不足するとうつ病や不眠症などの精神疾患をきたしやすいそうです。

厳密に言ってしまえば、セロトニンには脳で作られるセロトニンと腸で作られるセロトニンがあり、脳で作られるセロトニンを増やす必要があります。

脳のセロトニンを増やすのに重要なのが、原材料となる『トリプトファン』というわけです。
トリプトファンは、自然界の動植物に一般的に含まれています。
ところが、人間の体内では、作りだすことができないのです。
つまり、食事として摂取するしかないというわけです。

バランスよく食事を食べていれば、不足するという事はないとされていますが、無理なダイエットをしたり、偏食をしたりした場合には、問題になってきます。

ちなみに、この『トリプトファン』を多く含む食品には、バナナ、豆乳、牛乳、ヨーグルト、チーズ、ヒマワリの種、アーモンド、納豆、肉類、赤身の魚、すじこ、たらこ、白米、そばなどがあります。

疲れやすい、ボーっとする、イライラする、きれやすい、寝つきが悪い…などセロトニン不足を感じたら、食生活を見直してみてください。

食事以外で『セロトニン』を増やす方法として、下記があります。
1. 太陽の光を浴びる
2. リズミカルな運動をする
3. よく噛む
4. スキンシップ

過食を避けて海馬を守る

ストレスが長期にわたったり、ストレスの度合いが強かったりすると脳にも影響を与えてくるということがわかっています。
特に海馬はそういったストレスの影響を受けやすいとされています。
そして、この海馬の修復に重要な働きをしているものの1つにBDNF (Brain-Derived Neurotropic Factor) とよばれるものがあります。

BDNFは日本語でいうと脳由来神経栄養因子というもので、神経細胞の発生や成長、維持、修復に関与する分泌タンパク質です。
さらに学習や記憶、情動、摂食、糖代謝などにおいても重要な働きをしています。

抗うつ薬の種類にSSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitors 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というものがあります。
このSSRIがうつに効果を発揮するのも単にセロトニンを調整するというだけではなく、このBDNFの機能を回復させ、それによって障害を受けた海馬を修復しているのではないかという仮説もあります。

とはいっても、病気になってお薬が必要になってから初めて対処するよりは病気にならないように予防していきたいものです。
では、そのための方法には何があるのでしょう。
お薬を使う以外にこのBDNFを分泌させる方法としては、報告されているのが以下の3つ。
1. 運動
2. 適切な食生活(過食をしない)
3. 頭を使う事

最近、食生活とBDNFとの関係が見直されてきており、過食症の人ではBDNFが低値であり、食生活の改善によってBDNFの値が改善することが報告されています。
逆に、BDNFの値が低いと過食になりやすいということもわかっています。
つまり、BDNFが低い⇒過食⇒ますますBDNFが低くなるという悪循環になっている可能性があるという事です。

ストレス発散に食べまくる…というのも考えものということです。
食べたいものを我慢するのもストレスになるだろうし、適度にバランスをとって美味しいものをいただくのがいいかもしれません。

お酒でストレスは発散されない

純粋に楽しむためのお酒はともかく、ストレス解消のため…というのであれば、残念ながらあまり効果はないようです。
というのも、お酒でストレス発散されたと思っているのは、実は単に『ストレスを感じないようにしているだけ』のようなのです。

和歌山県立医科大学の上山敬司先生が行った実験です。
ネズミにアルコールを飲ませて、脳のストレス具合をみました。具体的に言うと、ストレスがかかると働き始める『zif268』遺伝子の活動がどうなっているのかを調べたんですね。

すると、アルコールを飲ませるとストレスを受けても大脳皮質の『zif268』は活動しませんでした。つまりは、ストレスを受けているにもかかわらず、ストレスを感じていないという事です。

ところが本当に何もストレスを感じていないかというと実は違うみたいです。
というのも、視床下部の『zif268』はというと、しっかり活動していたのです。

視床下部の活動というのは、意識にのぼらないため、本人は自覚できません。しかし、実は視床下部というのは身体のストレスを生み出す重要な場所なのです。

要するに、お酒には単にストレスを感じないようにする効果はあっても、ストレス発散の効果はなかったという事です。

まとめ

ストレスと食事の関係についてまとめてみました。
暴飲暴食を避け、トリプトファンの多い食品をとることが大切だということですが、ストイックになりすぎてストレスに感じるようでは本末転倒です。
無理のない範囲で、試してみるのがいいかもしれません。