男性と女性ではものごとの考え方、感じ方が違うといわれています。
そのためか、お互いのとる行動が理解できないということはよくあることです。
それを示すかのように、お互いを理解するための本もよくみかけます。

では、この男女の違いをもたらすものは何なのでしょうか?
その違いを知ることでお互いを理解し、より良い関係性が築けるようになるかもしれません。

男女の違いを生み出すものー親の求める資質の違いー

男女の違いを生み出す原因の一つとして、男性と女性とでは小さいころにかけられる言葉の違いが考えられています。

男の子が
「人前でめそめそするんじゃない」
「人より優れた人間になりなさい」
「人に負けないようにしなさい」
「負けて泣くやつがあるか」
という言葉をかけられることが多いのに対して、

女の子はというと
「そんな乱暴な言い方はしちゃダメ」
「人には優しくしなさい」
「思いやりのある子になりなさい」
「みんなと仲良くね」
といわれることが多いようです。

親が子どもに求める資質が男の子と女の子とでは違っているのかもしれません。
おそらく、今の社会の常識に照らし合わせて、時分の子どもが将来こういうふうになったら幸せになるのではないかと思う姿が男の子と女の子とでは違うのでしょう。
なので、男の子か女の子かによって、親が子どもにかける言葉まで変わってしまうのかもしれません。

それを考えると、男女の差というのは、どこまでが持って生まれてきたもので、どこからが育てられ方によるものなのかわからなくなってきます。

男と女では脳の構造が違っている

生まれ持ったものなのか、生まれた後の成長の過程でそうなったのかはわかりませんが、脳の構造自体も男性と女性とでは違うということが分かっています。

男女の最も大きな違いー脳梁(のうりょう)ー

脳梁は、左の脳と右の脳をつなぐものです。
私たちは、脳梁があることでリアルタイムに左脳と右脳が情報のやり取りをすることができます。
一般的に脳梁は、女性のほうが発達しています。

最近、アメリカのペンシルバニア大学のRagini Verma氏らは、男女の脳内での神経の走り方を目に見える形にすることで、その違いを明らかにしたそうです。

8歳~22歳の被験者8歳から22歳までの被験者949名(男性428人、女性521人)を対象に拡散テンソル画像法(Diffusion Tensor Imaging, DTI)という、MRIを用いた特殊な検査を行いました。
その結果、男性では脳の前後を接続するネットワークが多く見られたのに対し、女性では大部分が右脳と左脳を接続するネットワークだったそうです。
しかも、このような男女の違いは13歳以下の児童でほとんど見られず、思春期に差し掛かる15歳ごろから徐々に目立ってくるそうです。
13歳以下では男女差がないところを見ると環境要因も大きいのかもしれません。

前交連の違い

脳梁の下に、左の脳と右の脳をつなぐ前交連というものがあります。
これは感情を司っている左右の大脳辺縁系をつなぎ、情動の連絡を行っています。
ただ、意識化される領域とはつながっていないため、ここを介して言葉や思考のやりとりを行うことはできません。

この前交連も女性のほうが発達しているといわれています。
もっと正確にいうと、もっとも発達しているのがホモセクシャル(恋愛対象が同性)の男性、ついでヘテロセクシャル(恋愛対象が異性)の女性、もっとも発達していないのがヘテロセクシャルの男性だそうです(この当時の実験データには、ホモセクシャルの女性は含まれていませんでした)。
ホモセクシャルの男性の前交連は、ヘテロセクシャル女性より18%、ヘテロセクシャル男性より34%太かったそうです。

脳梁と前交連の違いがもたらすもの

左脳には言語野があるため、分析的、論理的、緻密であるのにとされています。
それに対して、右脳はものごとを細かく分けるよりも全体像をとらえるのが得意です。

私たちが顕在意識で認識できるのは、言語野がある左脳に入った情報だけです。
女性は、脳梁と前交連が太く左脳と右脳の連絡が密にとれるせいか右脳の情報をキャッチしやすくできています。
そのため、女性はマルチタスキング(同時並行で複数の作業をすること)が得意です。
なにかをしているときでも別の情報をキャッチしやすいのです。

逆に考えれば、男性は右脳からの感覚的な情報に惑わされることなく、1つの物事に集中するのに適しているということです。
1つのことを成し遂げるためには必要なことであることは間違いありませんが、何か作業をしている男性に話しかけてもほとんど聞いていない理由はここにあります。
いったん作業を中断しない限り話を聴くということが難しいのです。

これを証明するかのように、女性の方がより右脳を活発に働かせているということを示すデータがあります。

上記の図は男女のgyrification(脳のしわの深さ)です。
aが女性。bが男性。cが女性ー男性。dが女性>男性で有意差があったところです。

これをみると女性では右の脳と前頭葉の前方(前頭極付近)でよりgyrificationがみられています。
ちなみに前頭極は自他の心を読む、エピソード回想、複数の作業に関わっています。
つまり、女性の方が雰囲気を察知するのが得意で、相手の心理状況を見抜きやすいということです。

また、左脳と右脳の連絡の違いのせいか、男性と女性とでは会話のときに使っている脳の部位まで違っています。
右利きの38名(男性19名、女性19名)、男性の平均年齢28.5歳、女性の平均年齢24.0歳、fMRIで行った実験によると音韻処理の過程で男性は左脳だけ使っていたのに対して、女性は左脳だけでなく右脳も使っていたのです。

そのため、女性は話していく中で既存の常識にとらわれない発想がでてきやすい代わりに、話があちこちへ飛びやすいという特徴があります。

女性が共感力が高いわけーミラーニューロンシステムの違いー

ミラーニューロンは、他人の行動を理解したり、模倣によって新たな技能を修得する際に重要になってきます。
もともと、ミラーニューロンは、他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように“鏡”のような反応をすることから名付けられました。

このミラーニューロンシステムの中枢(弁蓋部、下頭頂葉)は女性のほうが発達していることが分かっています。
そのことも、女性が共感力や空気を読む力というのが高い理由なのではないかと考えられています。

それは良い点ばかりではなく、作業に集中しにくかったり、周りに同調して自分の意見が分かりにくくなったりする要因にもなってきます。

男と女ではストレスに対する反応が違っている

ストレスに対する反応も男性と女性とでは違いがあるようなのです。
最近までストレスによる反応は1930年代にアメリカの生理学者であるCannonが提唱した「Fight and Frightだと思われていました。
2002年にTaylorが女性には「Tend and Befriend」という反応もあることを提唱しました。

実はそれまでは、女性は生理周期があるため研究結果の解釈が複雑になるからという理由から研究対象から外されていたのです。
それが1995年にアメリカですべての研究対象として女性を排除しないようにという法令が出たことから女性に対してもストレス反応に対する研究がおこなわれるようになったのです。
法令を出された理由は、新規開発された循環器系の薬で女性の死亡例が続いたからという残念なものでしたが…。

それはともかく、ストレスがかかったとき、男性は自己中心的になりやすく、女性は他人に思いやりをもちやすいそうです。

ストレスに対する反応の違いをもたらすもの

この男女の反応の違いは、ホルモンの違いによるものではないかと推察されています。
意外に思うかもしれませんが、人はストレスにさらされたときも幸せホルモンといわれるオキシトシンが放出します。
そのため、人の支えを求めたくなるとも言われています。

そして、女性ホルモンのエストロゲンには、オキシトシンを高める働きがあります。
そのため、あの子育てという強いストレス状況下でさえ子供を育てることが可能になるのではないかとされています。

いっぽう、男性がストレスにさらされたときに分泌される男性ホルモンはというとこのオキシトシンの働きを妨げてしまうのです。
そのため、男性はキレやすく、さっさと逃げるという行動をとりやすいとされています。

ストレスがかかったときの行動の違い

実際、ストレスがかかったときの行動に男女で違いはあるのかということを調べた実験がります。

イタリアのInternational School for Adviced Studiesで行われた研究です。
64人の実験参加者に数学のテストと人前でのスピーチをしてもらい、ストレスのレベルを上げます。
その後で、他人を思いやらなければならないタスクや他人のおかれている状況を判断するタスクを行い、どのように行動するのかをみました。

すると、ストレスがかかったときの行動に男女差があったというのです。
男性は、ストレスがかかると自己中心的になりやすく、他人を思いやるタスクなどでは散々な結果になりました。
それに対して、女性はというと、ストレスが高いほど他人を思いやり、社会に貢献しようとする人が多かったのです。

つまり、男性と女性とでは、ストレスがかかったとき、他人に対する行動が真逆となるわけです。
もちろん、あくまで確率の問題で、そういう傾向があるというだけで、全員がそうなるわけではありません。

実際、ストレスの反応は、「男性はケンカかトンズラ、女性は世話と絆」が多いともいわれています。
「世話と絆」というのは、子供の世話をしたり、強いきずなのグループを作ったりすることから作られた造語です。

男性のストレスに対する反応は、きっと外で闘うためには必要だったものなのでしょう。
危険にさらされた時にとっさに敵と戦うか逃げるかしないと死んでしまってた時代の名残なのでしょうか。

ただ現代は、日常的なストレスにさらされて女性は男性ホルモンの割合が多くなり、男性は環境ホルモンの影響で男性ホルモンが少なくなっているともいわれています。
男性の女性化、女性の男性化っていうところでしょうか。

ちなみに、なにをストレスに感じるかも男女で違いがあるようです。
男性が他人との競争や知的劣等感であるのに対して、女性は社会的拒絶に対してストレスを感じやすいそうです。
そのためか男性は成果や自分の能力に価値を感じやすいのに対して、女性は成果そのものよりも自分がその共同体に貢献し、存在価値を認められているかどうかに価値を見出しやすいのかもしれません、

男と女では見ている世界が違っている

男性と女性とでは物の見え方も違っているようです。

ニューヨーク大学のアブラモブ氏によると、女性は色の違いを見分けるのが得意なのに対して、男性は素早く動く物体を目で追ったり、遠くの細かいものを見分けるのか得意なのだそうです。

色に関していうと、男性のほうが少し赤く見えている可能性があるそうです。
つまり、オレンジは男性でより赤く見え、みどりの草は女性がより深い緑で男性がより黄色っぽく感じるそうです

これは、狩猟・採集の時代からの名残なのではないかとされています。
狩りに出かける男性は遠くの動く獲物を見つける必要があるため、素早く動く物体を目で追ったり、遠くの細かいものを見分けるのか得意になり、木の実などを採っていた女性は木の実を見つけやすいように色を識別するのが得意になったのではないかというのです。

実際に、男性と女性とでは脳内の一次視覚野の神経細胞に違いがあります。
これは受精卵が着床してから人の形になるまでの男性ホルモンの影響によるものだそうです。

実際にそれを示すかのような実験があります。
16歳以上の視力が同じ男女を対象に行った実験です。

いろいろな色を見せ、色を識別してもらいます。
その時、男性の方が識別するために要する時間が長かったそうです。
つまり、女性の方が色の変化に敏感であるということです。

いっぽう、色の幅が違う縞模様になったライトが次々にチカチカと現れるのを見てもらい、その違いを識別してもらいました。
すると、男性の方がより速く点滅させても識別することができたのです。

他の感覚も男性と女性とでは、違いがあります。
女性の方が、匂いや音に敏感であることも最近の研究でわかっています。
つまり、生まれた時から男性と女性とでは、見ている世界が違うということです。

まとめ

男性と女性の違いについてまとめてみました。
お互いの特性を知ることは、相手の理解を深める第一歩になります。
理解が進めば対処法も思いつくこともあるでしょう。
結果として、お互いが相手を尊重できるようになり、よりよい関係を築けるようになるかもしれません。

参考)
1.脳の取扱説明書 p102
2.http://www.kotobasagashi.net/danjyo/table.php
3.Ben Spencer. The picture that reveals why men and women’s brains really ARE different: The connections that mean girls are made for multi-tasking. Mail Online 20:02 GMT, 3 Dec, 2013
4.LS Allen et. al. Sexial orientation and size of the anterior commissure on the human brain. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. Aug 1; 89(15): 7199–7202, 1992
5.Luders E. et. al. A curvature-based approach to estimate local gyrification on the cortical surface. Neuroimage Feb 15; 29(4),1224-30, 2006
6.Sam J. Gilbert et.al. Functional specialization within rostal prefrontal cortex (area10): A meta analysis. Journal of Cognitive Neuroscience 18:6, pp. 932–948, 2006
7.Bennett A. Shaywltz et. al. Sex differences in the functional organization of the brain for language. Nature Vol 373 (16) 607-609, Feb. 1995
8.Sex differences in the neuroanatomy of human mirror-neuron system: A voxel-based morphometric investigation. Cheng Y, et. al. Neuroscience 2009 Jan 23;158(2):713-20
9.山田茂人 ストレス反応の男女差 精神経誌112(5)516-520, 2010
10.http://www.mnn.com/health/fitness-well-being/stories/men-and-women-literally-see-the-world-differently