私たちは、身近な人が悩んでいるとその人自身をどうにかしてあげたいという気持ちになりがちです。
しかし、なかなか人を変えるということは難しいものです。

そういったときに、自分自身が安心・安定しているということがとても重要になってきます。
というのも、そのときの自分の状態が身近な相手に影響を与えている可能性があるからです。

不安は汗を介して伝わる

実は、不安に思っている人の汗を嗅ぐと、同情や苦痛に関わる島皮質(とうひしつ)が活性化するということが分かっています。

デュッセルドルフ大学のパウゼ博士が行った実験です。
学位取得のための最終口述試験を控えた大学生49人を集め、次の2つの状況での汗を回収しました。
1) 試験直前の緊張した状態で流した不安の汗
2) ジムの運動で流したスポーツの汗

それで、別の学生28人(うち男性14人)にこの汗を識別してもらいました。
まぁ、当然ですが、学生たちは意識的にはこの2種類の汗を識別できませんでした。

でも、この2つの汗を脳はしっかりと区別していたのですfMRIという脳機能を調べる機械を用いて、汗の匂いを嗅いだときの脳の働きを調べました。

すると、試験前で緊張している人から採取した汗の低濃度のにおいのサンプルは「人をいらいらさせる」ということがわかりました。
そのためか、不安の汗を嗅いだ人は、不意に大きな音をたてられたときに驚く反射も大きくなっていたそうです。

では、そのとき脳ではどういうことがおこっているのでしょうか?
「不安の汗」を嗅いだ時は、社会的感情に関係するとされる紡錘状回や共感に関連する島(とう)、楔前部(けつぜんぶ)、帯状回も活性化していました。
さらに、注意をコントロールする視床や背内側前頭前皮質、感情をコントロールする小脳中部にも活動がみられたうです。

つまり、私たちは、不安に感じている人が近くにいると、汗を介して、自動的に相手に注意が向いて共感してしまういうことです。不安が不安をよんでしまうのです。

脳の取扱説明書 p111

Alexander Prehn-Kristensen et. al. Induction of empathy by the smell of anxiety. PLoS One, 4: e5987, 2009