普段の生活で、何に意識を向けていますか?

気がつくと無意識で過ごしていたということもあるのではないでしょうか。

もし、無意識で過ごす時間が長いとしたら、それは脳の活性化という意味では非常にもったいないかもしれません。
意識が持つ力について脳の観点からみていきましょう。

行動の80%以上はお決まりの習慣に従っている

私たちは、毎日いろいろなことを決めています。
なんとその数、一日35,000回だそうです。

「朝目が覚めたときにすぐに起きるのか」といった些細なことから、「転職するかどうか」といった重大なことまでこれだけ多くの意思決定をしているわけです。
私たちの人生は、こういった日々の膨大な選択の積み重ねで決まっているといっても過言ではありません。

ところが、残念なことに私たちの選択のほとんどは、無意識にいつもの習慣や考え方に沿っているといわれています。
「私たちのとる行動の80%以上はお決まりの習慣に従っている」という衝撃の報告まであります。

複雑ネットワーク研究のパイオニアであるアメリカノースイースタン大学のバラバシ博士が行ったものです。
5万人の携帯電話の使用履歴を3か月にわたって調べ、各人の移動のエントロピー(無秩序さのパラメーター)を算出しました。

数値は割愛しますが、ざっくりいうと日ごろの行動パターンを知っていれば、「あの人が今どこにいるのか」を平均2か所以内に絞ることができるということらしいのです。

確かに。
昔、夜に病院を脱けだした人がいましたが、速攻で奥さんに見つかっていました(いた場所は行きつけの飲み屋でした)。

ファノ不等性係数という、「どこまで正確に人の移動パターンを言い当てることができるか」という予測率も計算されています。
これがなんと平均93%で、不規則な生活をしている人でさえ80%を下回ることがないそうです。
つまり、「私たちのとる行動の80%以上はお決まりの習慣に従っている」ということになります。

バラバシ博士らは、自由に行動しているようであっても、本人にも自覚できない行動のクセがあり、行動が常同化しているのではないかと推察しています。
そして、「ヒトには変化や自発性への強い願望はあるが、現実の生活は強い規則性に支配されている」と論文を結んでいます。

いくらなんでも、そこまで人間は単純なんだろうかとにわかにこの結果は信じがたいものがあります。
しかし、少なくとも、よほど意識的に日々の行動を決めないと変われないということは真実であるような気がします。
1日35,000回ですから、ある意味しょうがないですよね。

意識の力で脳は変わるーサルの実験よりー

マイケル・マーゼニックによって行われたサルの実験です。

6週間、毎日100分ずつヘッドホンで音を聞かせ、同時に装置を使って指をタップします。

1つのグループは、指に感じるリズムが変化を教えた場合にはジュースを一口与え、
指の感覚に意識をむけさせます。

もう一方のグループは、音が変わったことを教えた場合にはジュースを一口与え、
音に意識を向けさせます。

そして、6週間後にこの両者のグループの脳の機能を調べました。

つまりは、サルに与える物理的刺激は一緒で、意識を向けさせる先が違う場合にどうなるのかということを調べたのです。

結果はどうだったと思いますか?
指の感覚に対する刺激に注意を向けたグループでは、
タップを受けた指からの感覚入力を扱う脳の領域が拡大していました。

では、音に注意を向けていたグループではどうだったのでしょう?
指に同じ刺激を受けていたにもかかわらず、脳にそのような変化はおきませんでした。

では、音を処理する聴覚野はどうだったと思いますか?

ご想像の通り、音に注意を向けていたグループでは、
その時に聞こえた周波数を処理する聴覚野の領域が増えました。

いっぽう、指の感覚に注意を向けていたグループでは、
聴覚野にそのような変化はみられませんでした。

つまりは、同じ経験をつんだとしても、そこにどれだけ注意(意識)を向けているのかで、
その効果は変わってしまうということです。

大人になっても脳は成長している

以前は脳の細胞は増えるのは子どものときだけと考えられていましたが、今は成人になってからでも脳の神経細胞が増え、脳が変化することが分かっています。
よく使う脳の経路は強化され、使わない経路は廃れていきます。

これは、脳の可塑性(かそせい)と呼ばれています。

この脳の可塑性に大きな役割を果たしているのが「注意」です。
つまり、意識を向けている先が重要なのです。

同じことをしたとしても何に対して意識を向けているのかで脳の状態が変わってしまいます。

まとめ

意識の持つ力について脳の観点からまとめてみました。
なりたい自分になるには、日々の小さな積み重ねが大切です。
自分の理想の将来像を心に描き、意識的に過ごすことが大切なのかもしれません。

参考
脳の取扱説明書 p135
Limits of predictability in human mobility.
Chaoming Song, Zehui Qu, Nicholas Blumm, Albert-László Barabási
Science  19 Feb 2010:Vol. 327, Issue 5968, pp. 1018-1021 DOI: 10.1126/science.1177170
http://www.barabasilab.com/pubs/CCNR-ALB_Publications/201002-19_Science-Predictability/201002-19_Science-Predictability.pdf
http://www.utdallas.edu/~kilgard/10b%20Recanzone%20A1%20plasticity%201993.pdf